前回に引き続き、フォーグレーステーブルウェア代表の中村千恵さんと、おせちマイスターの中井千佳による「我が家らしいおせちの楽しみ方」をテーマにした対談の2回目をお送りします。
本編の前にお知らせです。
それでは、対談の本編をどうぞ。
作り手の現場を訪れ、五感で捉えるからこそ分かること
- 中村さん(以下敬称略)
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中井さんは、おせちマイスターって、すごいですね。究極のおせちを求めて1500種類以上も食べていらっしゃるとお聞きしました。
- 中井
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はい。確かに、それぐらい食べて研究しましたね。北は北海道、南は九州・沖縄まで、全国のメーカーさんを訪れて、材料や製造過程を見たり教えてもらったりしています。
- 中村
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実際に、現場をご自分の目で見られているのですね。
- 中井
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はい。中村さんも、全国の職人さんやメーカーさんの元を訪れて器を探したり、コラボレーションされたりしていらっしゃいますよね。
- 中村
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そうなんです。この夏も、長崎県の波佐見焼や佐賀県の有田焼の窯元を訪れて、職人さんたちにお会いしてきました。
- 中井
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長崎や佐賀まで。そうやって現場に行くことが大切ですよね。作り手の思いが分かりますし、何より五感で何が大切かということが分かるというのは、現場に行ってこそ、ですよね。
- 中村
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なんというか、目に見えるものだけじゃなくて、音とか、においとか、お人柄も含めて、何か「いい感じ」がするメーカーさんとは良いお取引ができそうな予感がします。
- 中井
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そういう感覚を磨くことで目利きできますし、自分の言葉でたくさんの人に伝えることができるようになると思うんです。
- 中村
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中井さんが特に印象に残っている職人さんやメーカーさんは、どこですか?
- 中井
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それは、たくさんあり過ぎて、全然絞り切れないのですが、まずは、中村さんがさっき召し上がった蒲鉾の「新川(しんせん)」ですね。初めてこの蒲鉾食べた時、もう、蒲鉾の概念が変わってしまったくらい衝撃の美味しさだったんです。
現地の工場で、市場で仕入れたばかりの「エソ」という高級魚を、石臼の機械ですり身にしているのを見て、「すり身を買って混ぜただけじゃないんだ」と驚きました。それを成形し蒸していく工程を見ていくうちに「だから美味しいんだ」って、すごく感動しました。
- 中村
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あのプリプリとした歯ごたえと、魚の美味しさが詰まっているのは、そういうことなんですね
- 中井
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この昆布巻きも、職人の手で美しく丁寧に巻かれていますし、田作りのメーカーさんは「縁起物に、頭がもげている魚は入れられない」と手で取り除くという、気の遠くなるような作業をしているんです。
- 中村
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日本の職人さんは、本当にすごいですよね。私も感動することが本当に多いです。
おせちマイスターとして伝えたい、おせちへの熱い思い
- 中村
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そういえば、中井さんは「マツコの知らない世界」にもご出演されたのですよね!
- 中井
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実は、そうなんです。他にもおせちマイスターとして、いろいろなメディアにも出させていただきました。
- 中村
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メディアでは、どんなことをお伝えされているのですか?
- 中井
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美味しいおせちを紹介することはもちろん、おせちを通して伝えられることって、もっとたくさんあると思うのです。おせちは、日本の伝統や美学を受け継ぐ食文化であり、時代のトレンドを映し出す鏡という側面もあります。そして、家族の絆やコミュニケーションを深めるのにも最適だと思います。
- 中村
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なるほど。日本の伝統食文化の代表ですよね。
- 中井
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そもそもおせちとは、お正月をお祝いするというよりは、その年の豊作や健康を願うために昔から行われている行事食でした。
平安時代から宮中で年5回の節句に「節会(せちえ)」という公式行事があり、そこで振舞われるご馳走を「御節供(おせちく)」といいました。それが短くなって「お節(おせち)」になったそうです。そして、江戸時代に庶民の間に広まり、時代と共に、一年の最初の「お節」が特に大切にされるようになったようです。
ですから、歳神様をお迎えし、いつも騒がしい台所を休ませて、家族の健康や幸せを願いながら、神様と一緒に食べるというのが、おせちに込められている意味です。また、毎日働いている奥様たちを休ませるという目的もあったのでしょうね。
- 中村
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おせちは、家族みんなで静かに神様を迎えて、健康や幸せを願うという意味合いが強かったのですね。
- 中井
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親戚など一族が一堂に会していたお正月ですが、核家族化になり、家族ごとに過ごすようになりましたよね。おせちは大人数用から小家族用になりました。
また年末忙しい家族にとって、おせちは「作るもの」から「買うもの」に、さらに、スーパーで買う冷蔵おせち商品から、通販で買う冷凍おせちも出てきました。
そして古来の日本食だけでなく、ローストビーフなど洋風のメニューも入れられるようになりました。おせち自体が、オードブル的なものに変わってきていると思います。
- 中村
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おせち歴史は長いですが、そんなに変化しているのですね。
- 中井
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それだけ「家族のあり方との関わり」が強いのでしょうね。また、またコロナ禍では皆で取り合う大皿料理が控えられ、おせちも個食盛りを家族分用意するのが多くなった印象もあります。
- 中村
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確かに、お正月用のプレートや皿のニーズも増えてきたように思います。それでも、家族みんなで盛り付けていくのは、いつの時代も楽しいですよね。
- 中井
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そうですね。盛り付ける時に、おばあちゃんから「昔はこうだったのよ」などと言いながらお子さんやお孫さんと一緒に盛り付けしたら、すごく楽しいし、日本の古き良き伝統文化を学べるのかなと思いますね。
年齢が離れると食の好みも違うので三世代・四世代が一緒に楽しむというのはなかなか難しいかもしれませんが、お正月くらいは、家族全員で同じおせちを食べてコミュニケーションを取ってもらえたらいいなと思います。
器のプロ中村さんとおせちマイスター中井の話は、さらにお正月の楽しみ方で盛り上がります。続きを楽しみに。